残念なことが起きた。
ドナーさんが肝炎にかかった。
5月30日が移植日であったが、二日前に延期が決まり一週間待った。
私は既に事前治療を八割済ませていたので、移植を止めることは出来ない。
誰かの骨髄を貰わないと生きられない状態になっていた。
かかりつけの担当医からも病院始まって以来の事態と告げられた。
一週間待っている間は楽観的な日もあった。
ドナーさんの容体が一時回復したからだ。
誰もが風邪だと思っていた矢先に、再入院後再び容体が崩れた。
ドナーさんは移植不適合の烙印が押されてしまい、ご自身の治療に専念することになった。
私にはバックアッププランが施されることになった。
臍帯血移植である。
出産時のへその緒から出る血液を臍帯血バンクというところで冷凍保存してある。
注射器一本分くらいの僅かな量だが、これを体内で増やして生着させるらしい。
誰のものでもよいわけではないが、ドナー適合よりかは遥かに適合種が見つかりやすい。
しかし、その分、リスクが大きい。
臍帯血移植には時間がかかる。
少ない量の細胞を体内で増やす必要があるからだ。
その間、私は免疫力がゼロとなる。
もちろん、無菌室で細心の注意が払われるが、体内に保持している菌もいる。
抗生剤は投与されるが、抑えきれないこともある。
また、移植後9日目に「Day nine Fever」と呼ばれる強烈な拒絶反応が起きる。
この拒絶反応ががん細胞を攻撃するという説もあるが、現代科学では定かではない。
拒絶反応はステロイドでコントロールできる。
私は現在、腫瘍が局所的なので抑えめで大丈夫だ。
拒絶反応を起こしすぎると脳炎になるリスクが増す。
脳炎になると3人に1人が死亡する。
3人の1人が記憶障害となり社会復帰が困難となる。
3人に1人は何も起きない。
臍帯血移植では10〜20%が脳炎になる。
かなり危険だ。
事前に分かっていたら、追い込まれない限りは選択しなかっただろう。
しかし、今は戦う時間も迷う時間もない。
残念ながら臍帯血移植一択なのである。
臍帯血移植自体は、よく行われている方法ではある。
移植といっても点滴注射で一分で終わる。
周囲の殆どは移植=手術と思っているようだが、移植=点滴なのである。
問題は移植した幹細胞が骨髄に生着するかどうかである。
また、生着する前に感染症にならないかどうかである。
なんだ感染症か、と高を括ってはならない。
38度の熱が出るような感染でも敗血症になって死亡するケースがある。
脳炎に至っては前述の通りである。
脳炎リスクを下げるために拒絶反応は最低限とする判断に至った。
オプジーボという新薬が後に控えているからだ。
オプジーボは免疫力を暴走させてがん細胞を攻撃する新薬だ。
移植後に使用した時の奏功率は高い。
なので、一世一代のかけをする必要がないのである。
本当は、この入院で全てを終わらせたかったが、そんなに甘くないのかもしれない。
オプジーボが効かなかったら、もはや打つ手がない。
しかし、現時点では完治率の方が高い。
データがあまりないのでハッキリとしたことは言えないが50〜70%と言われた。
私は以前からもっと少ない数値を言われていたので、正直驚いた。
リスクを取った分、移植を乗り切ればそれなりの期待が出来るとのことだ。
おそらくこの三ヶ月から半年で、この長い戦いの決着が見える。
移植日は明日、6月8日に決定した。
昨日が最後の抗がん剤、今日は放射線とヘビーな毎日だ。
しかし、もはや私の身体は何も感じまい。
放射線医からも線量オーバーで10年先に二次発がんの可能性が高いと言われた。
10年先なんて、なり振り構ってられない。
山中教授のIPS細胞と新薬、AI治療がきっと助けてくれるだろう。
私は最後まで勝ちに行く。