私は自分の道を再考した。
このままの自分で良いのか…。
社外の先輩や転職コンサルタントに頻繁に相談するようになっていた。
今でこそ、プロの道を目指すならSEを極めるべきと思うが、当時は違った。
特にお客様の現場で目の当たりにしたコンサルタントには刺激を受けていた。
次第に大手外資コンサルタント会社への憧れを抱くようになっていた。
私は転職をすることを決めた。
その頃には現場は安定し、私がいなくても回ると判断したからだ。
「抜けるなら今しかない。」
しかし、私に着いてきてくれた人への説明をどうするか、悩んでもいた。
共同創業者である先輩に話を通すと、私はライバルに胸の内を打ち明けた。
すると、ライバルは私の知らないところで直ぐにグループトップに話を流した。
私は銀座のバーに呼ばれた。
私は入りたい会社の名前を含めて事情を説明した。
彼は私に質問をした。
「その会社に入ってどうするのかね?」
私は答えた。
「はい。コンサルタントとして10年修行をして独立します。」
すると彼は大笑いした。
「なんだ、お前は経営者になりたいのか。」
「10年経ったお前はあまり面白くないな。」
私は意味がわからなかった。
続けて質問が来た。
「その、コンサルタントというのは儲かるのか?」
私は答えに窮し、分からないから転職するのだと説明した。
「それが分かるのに転職など要らない。一週間後にここに来なさい。」
その日は私の誕生日だったが、従うことにした。
一週間後に行くと、驚愕した。
なんと、転職希望先(一部上場企業)の社長がバーカウンターに座っていた。
業界ではかなりの有名人だ。
どうやら寿司屋で知り合ったらしい。
グループトップに紹介されると、続けてこう言われた。
「ほら、お前のやりたいビジネスモデルを聞きなさい。」
「お前が事業を立ち上げるなら、俺が3000万くらいお金を出すから。足りるか?」
私は言葉を失った。
全く何も聞けなかった。
ただ、座っているだけだった。
私の気持ちがただの憧れで、経営者としての考え方を全く誤解していたことに直ぐに気がついた。
そして目の前の状況を作り出し、私の考えを一瞬で変えたトップの器の大きさに気がついた。
(この人に追いていこう)
翌日、彼の元を再び訪れた。
私はお礼と同時に、会社に残る事を伝えた。
「ただし、条件があります。経営者として本格的にやりたい。」
私は直訴した。
すると、彼は答えた。
「当たり前です。」
磨くのはスキルではなく、人格と魅力だと気がついた。