死と向かい合うこと

まだ死ぬと決まったわけではない。

しかし、きっと長生きは無理だろう。

治療の度に生存率が落ちていく。

血液系のがん患者の多くがうつ病になる所以である。

血液内科には腫瘍精神科という科が併設されているくらいだ。

私もうつにならないように受診している。

「死んだら何にもない」

昔、次男を亡くしたときに、その思想は口に出さないでほしいと妻に言われた。

私のドライな死生観である。

いざ、自分が死という暗いトンネルの前に立つと、本能的に暗闇が怖いと感じる。

宗教がこれほど必要とされてきたのも理解が出来る。

現代のように医療が発達していない世の中では死に直面することが若いうちから当たり前だったのだろう。

しかし、今さら宗教を信じられないのも事実である。

そもそも、人間は生まれたときから死に向かっていて、暗いトンネルに向かって歩いている。

幸せを感じていると、それが見えないだけで、実際には近づいていってる。

私の方がトンネルに近いと思うのは決めつけだ。

不慮の事故で突然なくなる方は直前まで目前に迫ったトンネルに気がつかない。

要するに意識の問題であり、実際の距離が問題ではなく、意識下においてトンネルの方に歩んでいくことが如何に難しいかということを示している。

そこに必要なのは信念だと思う。

宗教は信念を生み出してくれる。

宗教を信じない人は信念を持って歩めばよい。

自分の信念は何かを考えた。

私は私を信頼してくれている人たちに、如何に死後も良い影響を与えられるかを全うすることを信念としたい。

簡単に言えば、死んでも愛されるロマンチズムである。

恐れながら死ぬのではなく、死に向かって歩んでいく生き様が大事だと思う。

トンネルを意識しているのに、大事な何かを成し遂げる。

そういう人生を送りたいと思った。

誤解されたくないのは完治を諦めたわけではないということ。

トンネルへの距離は問題ではない。

ただ、私はこの病気をきっかけにトンネルが見えるようになってしまったのである。

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